東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)107号 判決 1991年1月28日
原告
市川瓦斯株式会社
右代表者代表取締役
青山末吉
原告
有限会社末吉
右代表者代表取締役
鈴木仁
右両名訴訟代理人弁護士
中村雅男
被告
関東通商産業局長
小林惇
右指定代理人
田中治
外六名
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告らに対して昭和六一年五月七日付けでした各簡易ガス事業不許可処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告市川瓦斯株式会社(以下「原告市川瓦斯」という。)及び同有限会社末吉(以下「原告末吉」という。)は、いずれも千葉県市川市稲荷木二丁目において、小規模導管等により液化石油ガスを供給する事業を営む者であるが、それぞれ、昭和六一年二月七日付けで被告(当時の名称は「東京通商産業局長」であった。)に対し、ガス事業法(以下「法」という。)三七条の二による簡易ガス事業許可を得るため、原告市川瓦斯については九四の、原告末吉については七八の供給地点(以下、右の各供給地点を合せて「本件供給地点」という。)につき、簡易ガス事業許可申請(以下「本件各申請」という。)をした。
ところが、被告は、昭和六一年五月七日付けで、本件各申請に対し、いずれも法三七条の四第一項三号及び四号に適合していると認められないとの理由で不許可とする処分(以下「本件各不許可処分」という。)をした。
2 そこで、原告らは、それぞれ昭和六一年七月一日付けで通商産業大臣に対し、本件各不許可処分につき審査請求をしたが、同大臣は、昭和六二年七月三一日付けでいずれの審査請求についても棄却する旨の裁決をした。
3 しかしながら、本件各不許可処分は、次の理由により違法である。
(一) 本件各申請は、いずれも法三七条の四第一項三号及び四号に適合しているものであって、本件各不許可処分における右各号の解釈、適用は誤っている。
(二) 本件各不許可処分は、合理的な理由がないのに一般ガス事業者の利益を偏重して、原告らを経済的に不当に差別し、かつ、正当な理由もなく原告らが本件供給地点において簡易ガス事業を営む権利を侵すものであるから、憲法一四条一項(法の下の平等)及び二二条一項(職業選択の自由)に違反する。
(三) 本件各不許可処分のうち原告末吉に対するものについては、法三七条の四第二項により聴取されるべき地方ガス事業調整協議会の意見が聴取されていないから、手続上も瑕疵がある。
4 よって、原告らは、被告に対し、本件各不許可処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1及び2は認める。
2 同3は争う。
三 被告の主張
1 本件各不許可処分の実体的適法性
(一) 法によるガス事業の規制
本件各不許可処分の実体的適法性を検討する前提として、法がいかなる目的でガス事業を規制しているのかを明らかにしておくことが必要である。
(1) 法の目的
法は、ガス事業の運営を調整することによって、ガス使用者の利益を保護し、ガス事業の健全な発達を図ることを目的としている(法一条)。
すなわち、ガス事業は、国民生活に必需なエネルギーを低廉な価格で安定的に供給する公益性の高い事業であるが、ガス発生設備、導管等の供給施設を要するために総資産に占める固定資産の比率が高く、また、ガスの供給者と使用者とが導管という特殊な供給施設により連結されているため、ガスの供給者からみれば市場は導管網内に限定されるという特性がある。また、一般的に、同一地域においては、一の事業者によるガスの供給で足りるため、複数の事業者が競合する場合には、施設が重複し、国民経済的にみて重複、過剰投資として評価されるのみならず、最終的に特定の事業者の供給独占が達成されるまで激烈な競争が行われることになり、これをそのまま放置すれば、ガス事業の安定した継続性、保安面での消費者に対するサービス等において幾多の問題を引き起こし、結果的にはガス使用者に著しい不利益をもたらすことになる。そこで、法は、このようなガス事業者の競合の結果もたらされる国民経済的、社会的な弊害を未然に防止するため、ガス事業の許可、料金等の供給条件の認可などについて諸種の規制を行っている。
なお、ガス事業は、その性質上当然に独占となる事業として、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外となっている(同法二一条)。
(2) 一般ガス事業と簡易ガス事業
法は、ガス事業として、一般ガス事業と簡易ガス事業のみを認めている。
① 一般ガス事業の特性
一般ガス事業は、工場で集中生産したガスを延々と敷設した長大な導管網により、その供給区域にあまねく供給するという供給方式をとるため、総コストに占める固定費の比率が高く、スケールメリットが大きいという特性を有している。このような供給方式から、一般ガス事業は、大規模生産によるスケールメリットを発揮すべく、計画的に導管網を拡大していくため、主として市街地及び将来市街地となることが予想される地域を中心として、都市化の進展に伴い拡大しつつ発展していくという地域拡大性を有している。そして、この計画的に拡大していく区域として、法は一般ガス事業者に対して一定の区域を供給区域と定めて与え、独占的に経営を行わせる反面、需要が顕在的であるか潜在的であるかにかかわらずその区域全体に対する供給義務を課しているのである(法三条、四条、一六条)。
すなわち、一般ガス事業者は自己に有利な需要だけでなく、その供給区域内における需要に対してあまねく無差別、平等にガスを供給しなければならないのである。
このため、産業経済及び国民生活の通常の発展によるガス需要の拡大に伴ってガスの供給能力を増強することは、一般ガス事業者の当然の責務として求められている。
② 簡易ガス事業の特性
簡易ガス事業は、ガスの消費者に近接した場所で、簡易な発生方式でガスを発生させ、これを導管で供給するという方式をとるため、一般ガス事業の導管網の拡大によっては需要に対応することが困難な地域において、その簡便性により比較的速やかに需要に応じることができるという特性を備えている。また、簡易ガス事業者の供給義務は、一の団地内に存する顕在的な需要である供給地点のみに限定されているため(法三七条の六)、簡易ガス事業者は、通常、事業開始時点で具体化、顕在化している需要に対する以上に供給設備の増強に努める必要はなく、簡易ガス事業は、一般ガス事業との比較において地域拡大性を有しない事業であるということができる。
なお、簡易ガス事業は、後記③の小規模導管供給事業のうちの供給地点数が七〇以上の規模のものが、昭和四五年法律第一八号による法の改正によってガス事業とされ、法による公益事業規制を受けるようになったものであるが、これは、このような小規模導管供給事業であっても、一般ガス事業と同様、国民生活に必需なガスを導管により供給する方式をとり、ガス使用者としてもその事業者の供給するガス種に応じたガス器具等を利用することになってエネルギー選択の自由が制約されるため、ガス使用者の利益を保護する必要性が指摘されたことによるものである。そして、右法改正に当たって、簡易ガス事業に該当して法による規制の対象となるか否かは各事業者に極めて大きい影響を与えることになるから、簡易ガス事業者の範囲を客観的かつ一律的に画することが不可欠となり、国会審議の過程において、簡易ガス事業として公益事業規制を課すのは、消費者のエネルギー選択の自由が大幅に制約され、かつ、国民経済的にみて設備の二重投資による無駄が無視できない程度となる、供給地点数七〇以上の規模の小規模導管供給事業としたものである。
③ 液石法による小規模導管供給事業の規制
液化石油ガスは、簡易な施設で利用が可能であること、熱量も高く使用場所において液体から直接気化して使用できること、価格が比較的安価であること等により、昭和三〇年代後半から一般家庭を中心として急速な普及を見た。一方、これに伴い液化石油ガスによる災害が増加し、液化石油ガスの消費先における安全性の確保が緊急の課題として重要視されるとともに、流通機構の複雑さ、販売店の消費者に対する供給責任に関する自覚の欠如、不適正な計量等の問題が発生した。このような状況を背景として、昭和四二年、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(以下「液石法」という。)が制定された。液石法は、一般消費者等に対する液化石油ガスの販売、液化石油ガス器具等の製造及び販売等を規制することにより、液化石油ガスによる災害を防止することを目的としており(液石法一条)、主として保安の面から規制を行っている。
したがって、液石法は、液化石油ガスをガスボンベにより供給する場合はもちろん、これを小規模導管により供給する場合であっても、保安基準を満たすことで足りるとし、その他には、何らの事業規制を行っていない。すなわち、事業者が液石法により小規模導管供給事業を行おうとするときは、保安基準を満たせば、一般ガス事業者の供給区域内であると否とを問わず、また、その地域に一般ガス事業者の導管が既に張りめぐらされていると否とを問わず、自由に導管を敷設することができるのである。
しかしながら、供給地点数が七〇以上の小規模導管供給事業は、右②のとおり、法に規定する簡易ガス事業となるため、公益事業としての規制を受けることとなるのである。
④ 一般ガス事業と簡易ガス事業との調整
法は、一般ガス事業も簡易ガス事業もともに地域住民の日常生活に必需なガスを供給する公益事業として、重大な社会的責務を負う事業と位置付け、両事業の特性にあった方法、形態による健全な発展を期待している。
この一般ガス事業と簡易ガス事業との関係について、法は、一般ガス事業、簡易ガス事業のそれぞれの特性に従い、市街地及び将来市街地となることが予想される地域においては、大規模性及び地域拡大性を有し、広域的な観点から計画的に導管網の拡大を図ることにより同一生活圏に同一供給条件でガスの供給を行うことのできる一般ガス事業者によってガスの供給がされることを予定しており、また、一般ガス事業の導管網の拡大によっては需要に即応することが困難な地域においては、簡易ガス事業者がその事業の簡便性により速やかにガスの供給を行うことを予定している。しかしながら、現実の問題としては、一般ガス事業者の供給区域内に簡易ガス事業者が参入しようとすることがあり、この場合には両者を調整することが必要となる。この場合においては、地域拡大性を有し、広く地域社会に対し供給義務を負うという一般ガス事業の特性と、需要に速やかに対応でき、限られた地点のみに供給義務を負う簡易ガス事業の特性とに留意し、その地域の都市化の状況等を勘案しながら、いずれのガス供給方式が消費者の利益に資するか、また、二重投資の排除という国民経済的観点からみて適切な設備投資であるかを判断し、両事業の調整を図ることになる。この調整に関する基準を示したのが、法三七条の四第一項三号及び四号である。
ところで、法は、一般ガス事業者の供給区域内で、一般ガス事業者の導管網が敷設され、そのガスの供給体制ができているところについては、本来、一般ガス事業者がガスの供給を行っていくことを予定しているところ、本件供給地点を含む市川市稲荷木二丁目地区(以下「本件地区」という。)は、後記(二)の(1)の③のとおり、一般ガス事業者である京葉瓦斯株式会社(以下「京葉瓦斯」という。)が既に導管網を敷設している地域であるから、法が予定しているガスの供給形態からすれば、基本的には、一般ガス事業者である京葉瓦斯がガス供給を行うのが適切な地域であると考えられるのである。
(二) 本件各不許可処分の実体的適法性の判断
本件各不許可処分は、本件各申請が、法三七条の四第一項三号及び四号に適合していないとの被告の判断によるものであるが、その理由は、以下のとおりである。
(1) 本件供給地点及び周辺地域の状況
① 法三七条の四第一項三号及び四号の適合性を判断するに当たっては、簡易ガス事業の許可申請がされている供給地点及びその周辺地域の状況が重要な判断要素となることから、まずこの点を明らかにする。
② 本件供給地点は、本件地区に点在しているが、本件地区の所在する市川市は、千葉県の最西部に位置し、東西に狭く、南北に長く、江戸川を隔てて東京都江戸川区及び葛飾区と対峙しており、東は船橋市、北は松戸市及び鎌ヶ谷市、南は浦安市に隣接し、東京湾に臨んでいる。また、市川市は、東京駅より東日本旅客鉄道株式会社総武線(以下「JR総武線」という。)で約二〇分の距離にあるため、郊外住宅地として近年高層住宅が急激に増加し、東京のベッドタウン的性格を呈し発展してきている。同市の昭和六〇年一〇月一日現在の人口は、三九万七八八二人、普通世帯数は一三万二四一四世帯、人口密度は一平方キロメートル当り七〇五五人(全国平均三二五人)と全国でも人口密度の極めて高い地域である。
また、本件地区は、JR総武線本八幡駅より南に約1.5キロメートルの位置にあって、京葉道路の市川インターチェンジに隣接しており、その全域が都市計画法上の第二種住居専用地域又は住居地域に属し、既に市街地が形成されている。
③ 本件地区は、昭和二五年以来、京葉瓦斯の供給区域とされているが、京葉瓦斯は本件地区及びその周辺の都市化の進展等に対応するため次のとおり逐次導管を敷設してきた。
すなわち、京葉瓦斯は、昭和四三年に供給計画の一環として、本件地区のうち都市化の進んでいた地域と現在の稲荷木三丁目に当たる地域(稲荷木地区が一丁目から三丁目までに分割されたのは昭和四八年である。)との間に敷設した低圧本管を含め、本件地区に本支管四九九メートルを敷設した。なお、この低圧本管を敷設するに当たって、京葉瓦斯は、本件地区及びその周辺地域が、その開発状況からみて、昭和六五年ころには当時の市川市の人口集中地区並みに発展し、九七九戸(本件地区五九九戸、稲荷木三丁目地区三八〇戸)の消費者を擁するに至ると想定した。その後、昭和四八年には、京葉瓦斯は、本件地区を含む市川市南側と浦安市全域の住宅開発の進行状況を勘案し、供給能力の向上を図るため現在の稲荷木一丁目から本件地区を経由して浦安地区まで、口径二〇〇ミリメートル(一部三〇〇ミリメートル)の中圧(A)輸送幹線を敷設した。次いで、昭和五三年には、本件地区に小規模宅地造成が行われ、その需要に応じるため、京葉瓦斯は、口径一五〇ミリメートルの低圧本支管一〇四メートルを敷設した。この結果、本件地区における京葉瓦斯の消費者戸数は、三八戸(普及率10.5パーセント)、低圧本支管延長は、六六二メートルとなった。さらに、昭和五九年には、本件地区に宅地造成が進行し、また、本件地区の都市化の進展等に伴い京葉瓦斯によるガスの供給を希望する消費者が増大したことに対応するため、京葉瓦斯は、口径一〇〇ミリメートル(一部五〇ミリメートル)の低圧本支管を一二四二メートル敷設した。この結果、京葉瓦斯の消費者戸数九八戸(普及率24.0パーセント)、本支管延長一九二〇メートル(昭和五八年に敷設した一六メートルを含む。)となった。加えて、昭和六〇年には、本件地区の北部において導管を敷設してループ化(消費者への供給圧力維持等ガスの安定供給の確保を図るため、一方向からのみガスが流れている導管を連絡し、双方向からガスが流れるようにすることをいう。)を行い、その結果、本件地区の京葉瓦斯の消費者戸数は、一一九戸(普及率27.4パーセント)、低圧本支管延長は、二八五七メートルとなった。
このように、本件地区が市街地を形成していくに従い、本件地区における京葉瓦斯の普及率も高くなってきており、将来的には市川市全体の普及率である八六パーセントに近づいていくものと思料されるのである。
(2) 本件各申請が法三七条の四第一項三号に適合しない理由
① 法三七条の四第一項三号の判断基準
法三七条の四第一項三号は、簡易ガス事業の許可申請に係る供給地点が一般ガス事業者の供給区域内にある場合に適用されるところ、本件供給地点は、一般ガス事業者である京葉瓦斯の供給区域内にある。
したがって、本件において本号の該当性を審査するに当たっては、次のアないしウの点が順次判断されることになる。
ア まず、本件許可申請に係る簡易ガス事業の開始によって、一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域があるかどうか。
イ 次に、この支障を及ぼすおそれがある地域がある場合には、その地域について一般ガス事業者の適切かつ確実な供給計画があるかどうか。
ウ 最後に、この適切かつ確実な供給計画がある場合には、その簡易ガス事業が開始されたときに、その供給計画の実施によってガス使用者の受けるべき利益が阻害されないかどうか。
② 事業の遂行に支障を及ぼすおそれのある地域の存在
ア 一般ガス事業者の「事業の遂行に支障を及ぼすおそれ」とは、簡易ガス事業の許可申請に係る供給地点、その周辺地域及び右の地点及び地域への一般ガス事業者からのガスの供給に関連する地域(以下、単に「関連する地域」という。)において、一般ガス事業のガスの普及に支障を及ぼすおそれという程度の意味であって、一般ガス事業の事業経営そのものが行き詰る事態を招くおそれがあるという意味ではない。したがって、一般ガス事業者の事業規模が大きく、その事業規模からみて当該簡易ガス事業の許可申請に係る供給地点のウェイトが低い場合であっても、そのことをもって直ちに一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがないということはできない。
また、一般ガス事業者には地域独占が認められる反面、その供給区域内からガスの供給申込みがあった場合には、これに対して供給義務が課されているところから(法一六条)、一般ガス事業者としては、その供給区域内の都市化の進展等に合せて一般のガス需要に応ずるべく計画的に導管を敷設することが求められているのであって、本号でいう「事業の遂行に支障を及ぼす」の意味についても、このような一般ガス事業者のガスの供給義務を前提にして解釈すべきである。
イ 簡易ガス事業の開始によって一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域の有無については、一般ガス事業者のガスの供給計画と簡易ガス事業者の供給しようとする供給地点の実態との相関関係において個々に判断されるべきであるが、一般的には、次のような地域がこれに当たるものと解される。
a 簡易ガス事業の開始により、一般ガス事業者がその供給地点の周辺地域及び関連する地域に対しガスを供給する場合に、消費者の工事負担金が相当割高となるため、その周辺地域及び関連する地域における一般ガス事業の需要が大幅に減少し、又はなくなることが予想される場合におけるその周辺地域及び関連する地域。
b 簡易ガス事業の開始により、その供給地点を除く残存の需要のみでは、一般ガス事業者が導管等に係る投資を行うことが著しく困難となり、又はその投資効率を著しく阻害することとなることが予想される場合におけるその残存の需要の存する地域。
c 簡易ガス事業の開始により一般ガス事業の導管敷設工事が、その工事に係る導管がその簡易ガス事業の供給地点をう回することにより遅延し、又は道路計画等との関連でその工事が中断されることが予想される場合における当該一般ガス事業の導管敷設工事にかかる導管によるガスの供給が遅延し、又はできなくなる地域。
ウ これを本件についてみると、本件各申請については、以下のとおり、右イのa及びbに該当する地域があると判断される。
すなわち、本件各申請に係る簡易ガス事業を許可した場合、後記④のイないしオのとおり、原告市川瓦斯との関係にあっては、市川市稲荷木二丁目二一番地内に所在する供給地点の周辺地域において、また、原告末吉との関係にあっては、同市稲荷木二丁目一四番地内に所在する供給地点の周辺地域において、それぞれ一般ガス事業者たる京葉瓦斯がガスを供給することとなるときに、消費者の工事負担金が相当割高となるため、右各周辺地域における一般ガス事業の需要がなくなるか、又は大幅に減少する蓋然性が高いと判断されるのである。
さらに、前記(1)の②及び③のとおり、本件地区は、全域が都市計画法上の第二種住居専用地域又は住居地域に属し、既に市街化が進んでいる地域であり、一般ガス事業者である京葉瓦斯は、昭和四三年度の供給計画において、本件地区が、昭和六五年ころには当時の市川市の人口集中地区なみに発展し、五九九戸の消費者を擁するに至ると想定して、市街化の進展に応じて本支管敷設のため多額の投資を行ってきている。このような状況の下で、本件各申請に係る合計一七二の供給地点に対する簡易ガス事業を許可すれば、供給地点数が本件各申請時のままで増加しないと仮定しても、本件地区の残余の消費者戸数は、京葉瓦斯が当初想定した本件地区の消費者戸数五九九戸の約七割に減少し、その投資効率を著しく阻害することとなる。のみならず、一旦簡易ガス事業が許可されれば、その供給地点数には制限がないのであるから、次々と供給地点を増加させ、その結果、ますます一般ガス事業者の投資効率を低下させる可能性が大きいと考えられるのである。
以上によれば、本件各申請を許可した場合には、一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがあると判断される。
③ 適切かつ確実な供給計画の存在
ア 本件供給地点を含む市川市地域については、本件各申請当時、一般ガス事業者である京葉瓦斯の供給計画が存在していた。
イ この供給計画が適切かつ確実であるかを検討するに、まず、供給計画が適切であるかについては、この供給計画によってガスを供給する条件が、他の一般ガス事業者の供給条件と比較して適切であるかという観点から判断されるべきところ、この点について京葉瓦斯と事業規模が比較的類似している他の一般ガス事業者とガス料金等の供給条件を比べてみた場合、京葉瓦斯の供給条件は妥当であり、本件地区における供給計画は適切ということができる。
次に、供給計画が確実であるかについては、ガス需要の発生に速やかに応じられるかという観点から判断されるべきところ、前記(1)の③のとおり、京葉瓦斯は、本件地区において、昭和四三年以降逐次導管を敷設しており、本件各申請当時には、そのガス製造能力、供給能力、技術的能力、工事能力、資金調達能力等からみて、消費者の要望に応じて、いつでもガスを供給できる体制にあったから、本件地区における供給計画は確実ということができる。
④ 消費者利益阻害の有無の判断
ア 最後に、本件供給地点において簡易ガス事業が開始されることにより、「当該地域におけるガス使用者の当該供給計画の実施によって受けるべき利益が阻害されないか」という点が判断されることになる。
ここでいう「当該地域」とは、右②の一般ガス事業者の「事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」のことであるから、当該供給地点におけるガス使用者の利益のみならずその周辺地域及び関連する地域であって一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域におけるガス使用者の利益についても判断する必要がある。
本件供給地点については、ガス料金等の供給条件において原告らと一般ガス事業者である京葉瓦斯との間に有意の差は認められないことから、問題は、その周辺地域及び関連する地域におけるガス使用者の利益が阻害されるかどうかである。そして、この場合における消費者利益阻害の有無は、その周辺地域及び関連する地域のガス使用者につき、簡易ガス事業が許可された場合と不許可とされた場合との比較において、一般ガス事業者からガスの供給を受けるときの工事負担金が割高となるか否かを検討することによって判断される。
イ 一般ガス事業者が、消費者からガス供給の申込みを受けて導管を敷設する場合、同一の導管によってガスの供給を受け得る地区の消費者に対しては、消費者から個別に申込みを受けて、別々に導管工事を施工するのではなく、一回の工事で一本の導管を敷設した方が効率的であり、全体としての工事費用も少なくて済む上、共通の便益を受ける複数の消費者が工事費を分担することによって一戸当たりの工事負担金も少なくなり、消費者間の負担の公平も図れるものとなる。
そこで、工事負担金を試算する場合においても、例えば、道路等の地理的状況から同一の導管によりガスの供給を受けることとなる地区を想定し、そのように想定された地区内に所在する消費者を一つのまとまった供給対象として捕捉し、一戸当たりの工事負担金を割り出すのが通例であり、かつ合理的でもあると考えられる。
ウ 右の工事負担金の試算方法は、本件各申請が不許可とされた場合においては、そのまま妥当する考え方である。けだし、一般ガス事業者としては、その供給区域内において需要が顕在的であるか潜在的であるかにかかわらず、ガスを供給する義務を課されている(法一六条)ことから、ある地区に導管を敷設しようとするときに、本件のように、現在当該地区に小規模導管、あるいはガスボンベにより他の事業者から液化石油ガスの供給を受けている消費者がいるとしても、これらの消費者も含めて当該地区に存在し又は存在することになるであろう消費者全体を供給対象として工事を行わざるを得ないからである。
これに反し、本件各申請が許可された場合においては、右の工事負担金の試算方法はそのままでは妥当しないと考えられる。けだし、法に基づき許可された簡易ガス事業の供給地点については、第一次的には、簡易ガス事業者がガスの供給義務者となる(法三七条の六第一項)のであり、また、一旦簡易ガス事業者からガスが供給されるようになった消費者については、使用するガス器具等の関係から一般ガス事業者の消費者へ転換する蓋然性が極めて低くなるため、たとえ、道路等の地理的状況から簡易ガス事業者からガスの供給を受けている消費者を一つのまとまった供給対象として捕捉できる場合であっても、一般ガス事業者が当該供給地点をその供給対象に加えて工事負担金を試算することは、簡易ガス事業者の供給義務者たる地位からみて法の趣旨に適うものでなく、また、実体的にも合理性を欠くと考えられるからである。したがって、簡易ガス事業が許可された場合には、工事負担金の試算上その供給地点を除外した残余の消費者のみを供給対象とすべきである。
エ 被告は、工事負担金の試算についての右の考え方に基づき、原告市川瓦斯との関係では、市川市稲荷木二丁目二一番地内を、また、原告末吉との関係では、同稲荷木二丁目一四番地内をそれぞれ選定して、本件各申請当時の京葉瓦斯の供給規程及び本支管工事費見積単価表により本件各申請が許可された場合と不許可とされた場合とにおける工事負担金の額を試算し、その比較を試みた。
なお、右二地区を選定した理由は、工事負担金の試算についての右の考え方に鑑み、次の要件を充足させ得る地区を対象とするのが適当と考えたことによる。
a 第一に、本件供給地点に係る消費者の所在する地区の近傍地区であること。
b 第二に、本件供給地点に係る消費者以外に、原告ら以外の者からガスの供給を受け、一般ガス事業者の供給の対象となり得る消費者が現に存在するか、又は住宅地となるべき空地があり客観的にみて将来一般ガス事業者の供給の対象となる消費者(以下、両者を合せて「一般ガス事業者の供給の対象となり得る消費者」という。)の発生する蓋然性の高い地区であること。
c 第三に、一般ガス事業者の供給の対象となり得る消費者が一般ガス事業者からガスの供給を受ける場合に、導管敷設の工事負担金が必要となる地区であって、かつ、原告らの消費者及び一般ガス事業者の供給の対象となりうる消費者に同一の導管で供給すべき地区であること。
オ この試算の結果によれば、原告市川瓦斯との関係の稲荷木二丁目二一番地内に所在する三七戸については、本件各申請が不許可とされ全戸が京葉瓦斯からガスの供給を受けるものとした場合には、一戸当たりの工事負担金は〇円となるが、本件各申請が許可された場合に本件供給地点である三四戸を除く残余の三戸だけが京葉瓦斯からガスの供給を受けるものとすると、工事負担金は一戸当たり三七万六〇〇〇円となり、相当割高となるのである。また、原告末吉との関係については、原告末吉の申請に係る供給地点である稲荷木二丁目一四番地内の三戸の所在する地区は将来宅地化が進み、この三戸以外に公道を挟んで、さらに、三戸の需要が発生する可能性があり、これら六戸全戸が京葉瓦斯からガスの供給を受ける場合には一戸当たりの工事負担金は一万三〇〇〇円となるが、本件各申請が許可された場合には、将来発生すべき三戸の消費者だけが京葉瓦斯からガスの供給を受けることになり、一戸当たりの工事負担金は八万六〇〇〇円と相当割高となるのである。
カ 以上のとおり、本件各申請に係る簡易ガス事業が開始された場合には、稲荷木二丁目二一番地内及び同二丁目一四番地内に所在する本件供給地点の周辺地域における消費者が一般ガス事業者からガスの供給を受けようとする場合、工事負担金が大幅に増大することが認められ、その結果、既に京葉瓦斯の供給計画の対象となっている周辺地域の消費者について右供給計画の実施によって受けるべき利益が阻害されると判断されるのである。
なお、法は、一般ガス事業者の供給区域内のガス使用者について、一個人であると集団であるとを問わず、平等にその利益を保護すべきことを要請しているから(法一六条、一七条二項四号)、本件地区内において、右のように消費者の工事負担金が相当割高となる地域が一か所でもあれば、本号に適合しないものというべきである。
⑤ 以上要するに、原告らの本件各申請は、法三七条の四第一項三号に適合しないと認められる。
(3) 本件各申請が法三七条の四第一項四号に適合しない理由
① 法三七条の四第一項四号の判断基準
前記のとおり、ガス事業は使用者に導管によりガスを供給する事業であり、また、ガス発生設備、導管等を有する装置産業として固定資産の総資産に占める比率の大きい産業である。このため、同一地域において複数のガス事業者が併存することは重複、過剰投資の弊害を発生させることとなり、国民経済的にみて多大な損失となって、ガス事業の効率的、健全な発展を図ることが不可能となり、「ガス事業の運営を調整することによってガスの使用者の利益を保護し、及びガス事業の健全な発達を図る」という法の目的を達し得ないこととなる。そこで、かかる目的を達成するため本号が規定されたのである。
このような本号の趣旨から、簡易ガス事業の開始により既存の一般ガス事業との関係でガス工作物が著しく過剰となるか否かは次のように考えるべきである。
ア 一般ガス事業者が既に導管によりガスを供給している供給地点又は一般ガス事業者が消費者の申込みに即応してガスを供給することができるよう既に導管が張りめぐらされている地域における供給地点に係る簡易ガス事業の申請については、当該供給地点につき「ガス工作物が著しく過剰」となる。
イ 一般ガス事業者が供給計画に基づき、ある供給地点を対象とする支管を現に敷設しつつあり、その工事計画、需要発生の時期等からみてその供給地点を対象とする支管が敷設されているということができる場合における当該供給地点に係る簡易ガス事業の申請については、通常当該供給地点につき「ガス工作物が著しく過剰」となる。
ウ 一般ガス事業者がある供給地点を対象とする主要な導管を既に敷設しており、その供給地点における需要の発生に応じて速やかに支管及び供給管を敷設してガスを供給できる場合における当該供給地点に係る簡易ガス事業の申請については、多くの場合、当該供給地点につき「ガス工作物が著しく過剰」となる。
② ガス工作物の著しい過剰性の判断
ア 前記(1)の③のとおり、本件地区において、一般ガス事業者である京葉瓦斯は、昭和四三年に四九九メートルの導管を敷設して以来、需要の増大に応じて逐次導管を敷設してきており、本件各申請当時には導管延長は二八五七メートルに達していた。このように、本件各申請当時には、使用者のガス供給の申込みに即応してガスを供給することができるよう既に導管網が張りめぐらされており、また、京葉瓦斯のガス製造、供給等の能力からみて、本件地区の需要に対し、十分な対応が可能であった。
イ 一方、原告らが本件地区において敷設した導管は、原告市川瓦斯については総延長四七八メートル、原告末吉については総延長1198.5メートルとなっているが、このうち、京葉瓦斯の導管と重複する部分は、原告市川瓦斯については約六割、同末吉については約八割に及んでいる。この重複部分については、同じ道路に二本の導管を並行して敷設した状態となっており、当該部分について二重投資となることは明らかであるが、右のとおり、本件地区には、一般ガス事業者である京葉瓦斯の導管網が張りめぐらされており、消費者の需要に即応してガスを供給できる状況にあるのであるから、法の規制を受けるガス工作物としては、京葉瓦斯と重複していない部分をも含めてその全体が過剰であるというべきである。
したがって、本件地区において、本件各申請に係る簡易ガス事業を許可することは、前記①のアに該当し、ガス工作物を著しく過剰な状態にすることとなると判断される。
ウ なお、原告らは、本件各申請時において、本件地区で既に液石法の適用を受ける小規模導管供給事業を実施しており、既存の小規模導管供給分に新規の申込分を加えると供給地点数が七〇以上になるとして本件各申請に及んだものであるが、このようないわゆる「せり上り」による許可申請の場合であっても、ガス工作物の過剰性については、供給地点数が七〇未満の液石法の適用を受ける小規模導管供給事業の段階で成立した事実に拘泥することなく、簡易ガス事業の許可申請があった段階で初めて判断されるのである。すなわち、液石法は、保安の確保及び取引の適正化という観点から規制するにとどまり、ガス工作物の過剰性については全く関知していないのに対して、法が供給地点数七〇以上の小規模導管供給事業に対して簡易ガス事業として規制を加えようとしているのは、国民経済的にみて、設備の二重投資による無駄が無視できないとする供給地点数の分岐点を七〇に求めたものであるから、供給地点数七〇未満の小規模導管供給事業については、設備の過剰性を不問に付しているといえるのである。したがって、供給地点数が七〇以上となった簡易ガス事業の許可申請の段階で初めて設備の過剰性を問題とするのは、まさに法の趣旨にかなうものというべきである。
エ さらに付言すると、いわゆる「せり上り」による申請の場合には、ガス工作物の過剰性を問題とする余地はなく、すべて許可されるべしということであれば、法が、わざわざ法三七条の四第一項四号の規定を設けて、簡易ガス事業の許可申請につきガス工作物の過剰性の判断を要求している趣旨が没却されてしまうことは明らかである。
すなわち、供給地点数六九の小規模導管供給事業に新たに一供給地点が追加されるだけでは過剰投資にはならないとして、これを簡易ガス事業として許可すれば、次にこの七〇の供給地点に一供給地点を加える増加申請がされたときにも、簡易ガス事業として許可したときと同じ理由から、これを過剰投資と認定することが困難となり、同様に七一供給地点に一供給地点を加える場合にもこれを過剰投資と認定することが困難となって、以後は限りなく供給地点数が増加することとなる。その結果、ガス工作物が相当に過剰な状態を容認することとなり、これでは、法が本号を設けて事業調整をしようとした趣旨が損われることは明らかである。
2 本件各不許可処分の手続的適法性
通商産業局長は、一般ガス事業者の供給区域内における簡易ガス事業の許可申請に係る処分を行う場合は、法三七条の四第一項三号及び四号の規定の適用(同号の適用にあっては、一般ガス事業と簡易ガス事業との間の事業活動の調整を要する場合に限る。)をするについて、法四〇条の五第一項によって設置された地方ガス事業調整協議会の意見をきかなければならないとされている(法三七条の四第二項)ところ、被告は、本件各申請について昭和六一年二月二四日付けで東京地方ガス事業調整協議会に諮問し、同年三月一三日付けで同協議会から、本件各申請は、いずれも法三七条の四第一項三号及び四号の基準に適合しないと答申を受けた。
したがって、本件各不許可処分のうち原告末吉に対するものについても原告ら主張のような手続上の瑕疵はない。
3 以上のとおり、被告は、東京地方ガス事業調整協議会への諮問を経た上、法三七条の四第一項三号及び四号の許可基準に基づき厳正に審査を行った結果、本件各不許可処分をしたものであって、本件不許可処分は法に適合したものである。
四 被告の主張に対する原告らの認否及び反論
1(一)(1) 被告の主張1の(一)の(1)は争う。
(2) 被告は、ガス事業において複数の事業者が競争する場合には、最終的に特定の事業者の供給独占が達成されるまで激烈な競争が行われると主張するが、右主張は、根拠が明らかでなく、被告の単なる推測に基づくものにすぎない。また、被告は、ガス事業は、その性質上当然に独占となる事業であるとも主張するが、ガス事業の地域独占性を強調することは、一般ガス事業と簡易ガス事業との併存を認めた法の趣旨に反する。
(二)(1) 同(2)については、④のうち、京葉瓦斯が一般ガス事業者であることは認め、その余はすべて争う。
(2)① 被告は、法は市街地及び将来市街地となることが予想される地域においては、一般ガス事業者がガスを供給することを予定しており、簡易ガス事業者は、一般ガス事業の導管網の拡大によっては需要に即応できない地域にガスを供給することを予定していると主張するが、右主張は、重要な事実を故意に見過ごしている。
確かに、既成市街地から遠隔の地に団地等ができた場合、一般ガス事業者が導管を敷設してガスを供給したのでは採算が合わないため、簡易ガス事業が成立しやすいということはできる。しかし、法は、市街地、非市街地を問わず、簡易ガス事業の成立を認めているのであり、実際にも、小規模導管供給事業は、ガスボンベによる液化石油ガスの供給事業に代替する事業として、市街地において発展してきたのである。
② また、被告は、京葉瓦斯が導管網を敷設している地域であることを理由に、本件地区は、基本的に一般ガス事業者がガス供給を行うのが適切な地域であると主張するが、右主張は、本件地区における一般ガス事業の普及の経緯を無視した一面的な主張である。
すなわち、本件地区は、法が改正され簡易ガス事業が認められた翌年である昭和四六年五月当時、既に都市計画法上の第二種住居専用地域又は住居地域に属し、市街地が形成されている地域であった。ところが、後記2の(一)の(2)のとおり、一般ガス事業者である京葉瓦斯が本件地区の消費者にガスを供給することが可能な導管を敷設したのは、昭和五九年及び昭和六〇年のことであり、京葉瓦斯は、長期間にわたって、供給区域内の市街地である本件地区において需要に即応すべき導管を敷設せず、ガスの供給を怠っていた。そのため、原告らは、順次小規模導管を敷設し、本件地区の消費者のガス需要に応えて液化石油ガスを供給してきたのであり、京葉瓦斯は、本件地区の消費者の大半が原告らからガスの供給を受けていることを承知の上で、昭和五九年及び昭和六〇年に導管を敷設したのである。したがって、このような本件地区における一般ガス事業の普及の経緯を無視して、本件地区は基本的に一般ガス事業者である京葉瓦斯がガス供給を行うのが適切な地域であると主張することは不当である。
③ 原告らは、本件地区において液石法の適用を受けて小規模導管供給事業を行っていたが、新規の申込分を加えると供給地点数が七〇を超えるため、いわゆる「せり上り」により本件各申請に及んだものである。本件のような「せり上り」による許可申請については、原則として簡易ガス事業を許可し、これを公益事業としての規制に服せることが、より一層の安全性や安定供給を確保することになり、また、消費者の意思を尊重することになって、法の趣旨に合致するものである。
また、「せり上り」に関しては、「一般ガスの既供給区域内での液化石油ガス小規模導管供給事業からのせり上りについては、それが故意の未申請で消費者に大きな不利益を与えたことが明白なもの及び消費者の一般ガスへの転換希望が明確なもの以外のケースの中には、周辺の一般ガス事業の導管の状況や消費者の意向を勘案すれば簡易ガス事業として許可を与え、むしろガス事業法による公益事業規制を受けさせる方向で指導してもよい場合があるものと考えられる」との通達(昭和五六年一一月三〇日付公が事第一九号資源エネルギー庁公益事業部ガス事業課長通達)が出されているところであり、右通達の趣旨によれば、本件はまさに簡易ガス事業の許可を与えるべき事案である。
2(一)(1) 同(二)の(1)については、②の全部及び③のうち、本件地区が京葉瓦斯の供給区域となっていることは認め、その余は不知。
(2) 京葉瓦斯が昭和四三年に本件地区のうち都市化の進んでいた地域と現在の稲荷木三丁目に当たる地域との間に敷設したとする導管は、本件地区の消費者にガスを供給するためのものではなく、また、昭和四八年に敷設したとする中圧(A)輸送幹線も、中圧ガスを輸送するためのもので、本件地区の一般の消費者にこれから直接にガスを供給するための設備ではなかった。その後、昭和五三年に、京葉瓦斯が本件地区付近に敷設したとする本支管も、京葉道路寄りに敷設されたもので本件地区への供給には直接は関係のないものであった。京葉瓦斯が本件地区の消費者にガスを供給することが可能な導管を始めて敷設したのは、被告の主張によっても昭和五九年及び昭和六〇年であり、それまでの間は、京葉瓦斯は、本件地区について需要に応えるべき供給設備を持たなかったのである。一方、原告市川瓦斯は、昭和三四年ころから本件地区を含む千葉県市川市一円において、液化石油ガスの販売を行い、昭和五〇年七月以降、本件地区に順次導管を敷設して小規模導管供給事業を行っていたのであり、また、原告末吉は、原告市川瓦斯から、その導管網の一部の譲渡を受けたものである。京葉瓦斯は、原告らが既に小規模導管等により液化石油ガスを供給しているところに、二重に導管を敷設してきたというのが実態である。
(二)(1) 同(2)については、①のうち、本件供給地点が一般ガス事業者である京葉瓦斯の供給区域内にあることは認め、その余はすべて争う。
(2)① 事業の遂行に支障を及ぼすおそれのある地域の存在について
ア 被告は、本件各申請に係る簡易ガス事業を許可した場合に一般ガス事業の遂行に支障を及ぼすおそれのある地域として、消費者の工事負担金が相当割高となるため、一般ガス事業の需要がなくなるか、又は大幅に減少する蓋然性の高い地域があると主張するが、右主張は、後記③のとおり、合理的な根拠もないのに本件各申請を許可した場合と不許可とした場合とで想定消費者数に差異があるとの事実を前提として、工事負担金の額を試算した結果に基づくもので、当を得ない。
イ また、被告は、原告らの本件各申請を許可すれば、残余の消費者戸数が、京葉瓦斯が昭和四三年度の供給計画において想定した本件地区の消費者戸数五九九戸の約七割に減少し、その導管等の投資効率を著しく阻害すると主張するが、原告らが現にガスを供給している一七二地点の消費者については、京葉瓦斯はガスを供給していないのであるから、本件各申請を認めても、それによって京葉瓦斯の消費者が減少するわけではない。また、本件各申請が認められないとしても、本件地区において原告らがガスを供給している消費者は、過去の経緯からみて将来においても京葉瓦斯の消費者に転換する可能性はほとんどなく、京葉瓦斯が右一七二地点にガスを供給していない現状は何らの変化がないと考えられるのである。そうだとすると、京葉瓦斯は将来においても五九九戸の消費者を確保できないことになるが、この場合、簡易ガス事業を認めなくとも事業の遂行に支障があることになり、結局、本件各申請に対する許可又は不許可の処分は京葉瓦斯の投資効率に影響しないことが明らかである。
ウ さらに、被告は簡易ガス事業が許可されれば、その供給地点数に制限がないのであるから、次々と供給地点を増加させ、その結果、ますます一般ガス事業者の投資効率を低下させる可能性が大きいと主張するが、簡易ガス事業が許可された場合であっても、その後の供給地点の増加については、逐一被告の許可を得なければならないのであるから、簡易ガス事業者が際限なく供給地点を増やせるものでないことは明らかである。また、簡易ガス事業の供給地点が増加するとすれば、それは消費者の選択によるものであるか、あるいは、一般ガス事業者が供給計画を実施せず、ガス需要に即応できる体制にないためであるかであるから、いずれにしても、このような場合に被告が一般ガス事業を保護する必要はない。
そもそも、本件地区については、京葉瓦斯はガスの供給義務を負っているにもかかわらず、長期間にわたって導管を設置せず、その履行を怠っていたため、原告らが小規模導管によって液化石油ガスを供給して今日に至っているのであり、被告が、後から導管を敷設した京葉瓦斯について、原告らの消費者が京葉瓦斯に転換しないと導管等の投資効率が低下し事業の遂行に支障を及ぼすと主張するのは、一般ガス事業者である京葉瓦斯に対する極端な差別的優遇というべきである。
② 適切かつ確実な供給計画の存在について
被告は、京葉瓦斯の本件地区におけるガス供給計画は、適切かつ確実と判断したと主張するが、京葉瓦斯は、法が改正され簡易ガス事業が認められた昭和四五年から昭和五九年ないし昭和六〇年まで一四、五年間も供給計画を実施しなかったのであるから、京葉瓦斯の供給計画は、不適切かつ不確実なものである。
③ 消費者利益阻害の有無について
ア 被告は、工事負担金の試算上、本件各申請が許可された場合には本件供給地点を除外した残余の消費者のみでこれを負担し、本件各申請が不許可とされた場合には本件供給地点に係る消費者を含めて行うべきであると主張し、その理由として、法による許可を受けた簡易ガス事業の供給地点については、第一次的には、簡易ガス事業者がガスの供給義務者になることをあげている。
しかしながら、簡易ガス事業者がその供給地点について、供給義務を負うのは当然のことであるが、簡易ガス事業が許可された場合であっても、簡易ガス事業者の消費者が一般ガス事業者の消費者へ転換することは、最終的には消費者の自由意思に委ねられているのであるし、また、右許可がされなかったとしても、現に小規模導管による液化石油ガスの供給を受けている本件供給地点に係る消費者が一般ガス事業者の消費者に転換するとは限らないのであるから、工事負担金の額を試算するについて、簡易ガス事業の許可、不許可によって異なった消費者戸数を想定し、許可した場合は工事負担金が割高になるという計算方法は合理的根拠がないというべきである。
なお、原告らの消費者は、原告らから長年にわたって液化石油ガスの供給を受け続けており、本件各申請に係る簡易ガス事業の許可の有無にかかわらず、事実上、京葉瓦斯の消費者へ転換する蓋然性は極めて低いというのが実態である。
イ 被告は、一旦簡易ガス事業者からガスが供給されるようになった消費者については、使用するガス器具等の関係で一般ガス事業者の消費者への転換の蓋然性が極めて低くなることから、本件供給地点を除外して工事負担金を試算するのが実体的にも合理的であるとも主張するが、被告の右主張が不合理なことは明らかである。
すなわち、原告らが現在小規模導管によって液化石油ガスを供給している消費者について、簡易ガス事業の許可があったとすれば、当該消費者は許可前に使用していたガス器具等を許可後もそのまま使用するのであって、許可の前後によってガス器具等を変更する必要は全くない。したがって、一旦簡易ガス事業者からガスが供給されるようになった消費者について、使用するガス器具等の関係から一般ガス事業者の消費者への転換の蓋然性が極めて低くなるというのであれば、現在原告らが液石法に基づいてガスを供給している消費者についても、使用するガス器具等の関係から一般ガス事業者の消費者への転換の蓋然性が極めて低いことになり、被告が許可の有無により工事負担金の試算について想定消費者数の区別を行っていることは根拠を欠くことになる。
ウ よって、被告の工事負担金についての試算は、恣意的な机上の空論にすぎず、本件各申請に係る簡易ガス事業が開始されても、京葉瓦斯の供給計画の実施によって消費者の受けるべき利益が阻害されることはない。
(三)(1) 同(3)については、②のアは不知、同ウのうち、原告らが本件各申請時において、本件地区で既に液石法の適用を受ける小規模導管供給事業を実施しており、既存の小規模導管供給分に新規の申込分を加えると供給地点数が七〇以上になるとして本件各申請に及んだものであることは認め、その余はすべて争う。
(2)① 被告は、京葉瓦斯が本件地区において昭和四三年以来最近に至るまで需要に応じ逐次導管を敷設してきた旨を主張するが、前記(一)の(2)のとおり、原告らが現在ガスを供給している消費者に対して、京葉瓦斯がガスの供給を可能とする導管を敷設したのは、昭和五九年及び昭和六〇年のことであり、それ以前は仮に消費者からガスの供給を求められても、供給すべき導管を有していなかった。原告らは、京葉瓦斯が本件地区について長期間にわたってガス需要に対する即応体制をとらなかったから、消費者のためにガスを供給してきたのである。しかるに、京葉瓦斯は、原告らが導管網を敷設した後に重複的に導管を敷設したため、二重投資が問題となるのであり、被告が本件地区における導管の二重投資を問題にするのであれば、本件地区を京葉瓦斯の供給区域から削除して京葉瓦斯の時機に遅れた導管敷設を許すべきでなかったのである。
② 原告らは、いずれも本件供給地点において、小規模導管により消費者に対して液化石油ガスを供給しているが、原告らの営業努力と消費者の選択によって、ガス供給の申込数が順次増大し、既存の小規模導管供給分に新規の申込分を加えると供給地点数が七〇以上になるため、いわゆる「せり上り」により本件各申請に及んだものである。
法は、一般ガス事業者の供給区域内であっても、供給地点数が七〇未満の小規模導管供給事業については何ら規制しておらず、供給地点数六九までの範囲では自由に導管等を敷設することを許容しているのであるから、小規模導管供給事業の供給地点数が順次増大し、七〇以上となる場合のあることを当然に予想しているのであり、このようなせり上りによる許可申請については、前記1の(二)の(2)の③のとおり、原則として簡易ガス事業の許可を与えるのが法の趣旨であるというべきである。
確かに法は、簡易ガス事業の許可申請についてせり上りによる許可申請とそれ以外の許可申請とを形式的には区別していないが、両許可申請に共通するのは、供給地点数が七〇以上であるという点だけであり、その許可申請に至る経緯及び態様は著しく異なるところである。法三七条の四に適合するか否かが問題となるのは、例えば、一般ガス事業者の供給区域内であって、供給計画が実施され需要に即応できる導管等が敷設されている状態にある地域において、新たな団地などが建築されて全く新規に簡易ガス事業を営もうとして許可申請をする場合である。これに対して、原告らは、小規模導管事業の消費者戸数の増加に伴い導管を延長してきており、本件各申請が許可されても新たに導管を敷設する必要はなく、既存の設備をほとんどそのまま利用するにすぎないのであって、ガス工作物の実体の総量は、許可の前後でほとんど変らないのである。このような本件各許可申請と右のような全く新規に簡易ガス事業を営もうとして許可申請を行う場合とを申請に係る簡易ガス事業の供給地点数が七〇以上であることのみをもって同一視し、法の適用において全く同じであるとするのは、あまりに形式的な解釈であり、法の趣旨に合致しないものといわざるをえない。
③ 被告は、「せり上り」の場合にはガス工作物の過剰性を問題とする余地はなく、すべて許可されるべしということであれば、法第三七条の四第一項四号の規定が無意味となると主張する。
しかし、簡易ガス事業が許可された場合であっても、その後の供給地点の増加については、逐一被告の許可を得なければならないのであるから、簡易ガス事業者が際限なく供給地点を増やせるものではないことは明らかである。また、簡易ガス事業の供給地点が増加するとすれば、それは一般ガス事業よりも簡易ガス事業を選択した消費者の選択によるものであるか、あるいは、一般ガス事業者が供給計画を実施せず、需要に即応できる体制にないためであるかであるから、いずれにしても、このような場合に被告が一般ガス事業者を保護する必要はない。
3 同2及び3は争う。
第三 証拠関係<省略>
理由
一請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
二本件各申請の法三七条の四第一項三号への適合性について
1 本件供給地点及び本件地区の状況について
(一) 京葉瓦斯が一般ガス事業者であること、本件地区が京葉瓦斯の供給区域であること及び被告の主張1の(二)の(1)の②の事実は、当事者間に争いがない。
(二) 京葉瓦斯の導管敷設状況
<証拠>によれば、次の事実が認められる。
(1) 京葉瓦斯が本件地区に最初に導管を敷設したのは、昭和四三年であり、本件地区と現在の稲荷木三丁目地区との境の道路等に低圧導管四九九メートルを敷設した。低圧導管は、その周辺の消費者に対する供給を可能とするものである。
(2) その後、京葉瓦斯は、本件地区を含む市川市南側と浦安市全域へのガス供給能力の増強を図るため、昭和四八年に、現在の稲荷木一丁目から本件地区を経由して浦安地区まで中圧(A)輸送幹線と称する中圧導管を敷設した。中圧導管は、ガス輸送を目的としており、これから直接に一般の消費者にガスを供給できるものではない。
(3) 京葉瓦斯は、昭和五三年及び昭和五四年には、本件地区の京葉道路寄りの部分で行われた小規模宅地造成の需要に応じるために低圧導管一五四メートル(昭和五三年四九メートル、昭和五四年一〇五メートル)を敷設した。
(4) 京葉瓦斯は、昭和五九年には、本件地区の宅地造成及び都市化の進展に伴う消費者の増大に対応するため、低圧導管を一二四二メートル敷設し、さらに、昭和六〇年には、ガス供給能力を一層増強するため本件地区の北部において低圧導管九三八メートルを敷設し、ループ化を行った。
(5) 昭和四八年及び昭和五八年にも、若干の低圧導管の敷設があり、その結果、本件各申請当時には、京葉瓦斯の本件地区における低圧導管延長は、二八五七メートルとなり、その消費者戸数は一一九戸(普及率約二七パーセント)となった。
2 事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域について
(一) 法三七条の四第一項三号にいう「事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」とは、一般ガス事業のガスの普及に支障を及ぼすおそれがある地域を意味するものであって、このような地域であれば、簡易ガス事業の許可申請に係る供給地点のみではなく、一般ガス事業者の供給区域のうち、右供給地点の周辺地域やこれ以外の地域でその簡易ガス事業の存在により右供給地点及びその周辺地域への一般ガス事業者からのガスの供給に関連する地域も含むものと解される。そして、これを若干具体的に掲げるとすれば、概ね被告の主張1の(二)の(2)の②のイのaないしcのような地域であると考えることができる。
(二)(1) 被告は、本件各申請について右のaに当たる地域、すなわち、原告らの簡易ガス事業の開始により、一般ガス事業者である京葉瓦斯がガスを供給する場合の消費者の工事負担金が相当割高となるため、一般ガス事業の需要が大幅に減少することが予想される地域が存在すると主張し、具体的には、原告市川瓦斯との関係では市川市稲荷木二丁目二一番地内に所在する本件供給地点の周辺地域が、また、原告末吉との関係では同市稲荷木二丁目一四番地内に所在する本件供給地点の周辺地域がこの地域に当たると主張するので、以下この点について検討する。
(2) <証拠>によれば、工事負担金の性格及びその額の計算方法について、次の事実が認められる。
ア 工事負担金は、一般ガス事業者の供給規程の中で定められているが、京葉瓦斯の供給規定を含む通常の供給規定によれば、消費者のガス供給の申込みに伴い新規に本支管を延長する必要がある場合において、消費者の予定使用量に相応する大きさの本支管等の設置に要する工事費から所定の一般ガス事業者の負担すべき額を控除したものであり、一般に同一の本支管によってガスの供給を受け得る地区については、工事に当たり新たに供給を申し込んだ消費者の戸数が多ければ多いほど、一般ガス事業者の負担すべき額がその戸数に応じて増加することとなっていること及び共通の便益を受ける複数の消費者が全工事費を分担することになることによって、一戸当たりの工事負担金の額は少なくなる。
イ そして、一般ガス事業者が消費者からガス供給の申込みを受けて導管を敷設する場合には、同一の導管によってガスの供給を受け得る地区内の消費者について、供給申込みを勧誘する等の営業努力により、できる限り多くの消費者から同時に申込みを受けるよう努めるのが通常である。
ウ したがって、同一の導管によってガスの供給を受け得るある特定の地区内の消費者が一般ガス事業者からガスの供給を受ける場合の工事負担金の額を試算する場合においても、その地区内に所在する消費者を一つのまとまった単位の供給対象として捕捉し、一戸当たりの工事負担金の額を割り出すのが通例であり、また、合理性もある。
(3) ところで、被告は、市川市稲荷木二丁目二一番地内及び同稲荷木二丁目一四番地内の消費者が新たに一般ガス事業者からガスの供給を受ける場合の工事負担金の額を試算するに当たって、本件各申請が不許可とされた場合には、右各地区内に所在するすべての消費者が供給対象となるものとして試算すべきであるが、本件各申請が許可された場合においては、右各地区内の消費者のうち許可された簡易ガス事業の供給地点となる消費者については、これを除外して残余の消費者のみを供給対象として試算すべきであると主張する。
そして、<証拠>によれば、被告の考え方に基づいて試算した工事負担金の額について、次の事実が認められる。
ア 本件各申請当時の京葉瓦斯のガス供給規程及び被告の承認を受けた工事単価に基づき、本件各申請を許可した場合と不許可とした場合とにおける工事負担金の額を計算すると、原告市川瓦斯との関係では、本件各申請が不許可とされて稲荷木二丁目二一番地内に所在する三七戸の全戸が京葉瓦斯からガスの供給を受けるものとする場合には、一戸当たりの工事負担金は〇円となるが、本件各申請が許可された場合に本件供給地点である三四戸を除いた残余の三戸だけが京葉瓦斯からガスの供給を受けるものとすると、一戸当たりの工事負担金は約三七万六〇〇〇円となり、相当割高となる(ちなみに、他の試算根拠を同一とすれば、右負担金は、一〇戸の場合約七万一〇〇〇円、一五戸の場合約二万七〇〇〇円、二〇戸の場合約五四〇〇円、二二戸以上の場合〇円である。)。
イ また、同様に、原告末吉との関係では、稲荷木二丁目一四番地内においては、原告末吉の申請に係る供給地点である三戸以外に道路を挟んで、さらに、三戸の需要が発生すると仮定して、これら六戸全戸が京葉瓦斯からガスの供給を受けるものとすると一戸当たりの工事負担金は約一万三〇〇〇円となるが、本件各申請が許可された場合に将来発生すると仮定された三戸だけが京葉瓦斯からガスの供給を受けるものとすると、一戸当たりの工事負担金は約八万七〇〇〇円と相当割高となる(ちなみに、他の試算根拠を同一とすれば、右負担金は、四戸の場合約五万円、五戸の場合約二万八〇〇〇円である。)。
(4)ア しかしながら、右(3)のア及びイで認定した工事負担金の額は、右各地区において新規に一般ガス事業者からのガスの供給を申し込む消費者数を、本件各申請が不許可とされた場合には各地区内の全戸数とし、許可された場合には、本件供給地点となっている消費者を除いた残余の戸数となることとして計算しているのであるから、右(2)のアで認定したとおり、一般に同一の本支管によってガスの供給を受け得る地区については、新規にガスの供給を申し込んだ消費者の戸数が多いほど工事負担金の額が少なくなる関係にある以上、本件各申請を不許可とした場合の方が工事負担金の額が少なくなるのはいわば当然の結果である。
そこで、工事負担金の額についての右の試算結果が合理性を有するか否かは、本件各申請が不許可とされた場合には、対象地区内に所在するすべての消費者が供給対象となるとし、許可された場合においては、簡易ガス事業の供給地点となる消費者を除いた残余の消費者のみを供給対象とするという前提が合理的であるか否かによることとなる。
イ 被告は、右の前提に立つ根拠として、一般ガス事業者の供給区域内の消費者であっても、許可された簡易ガス事業の供給地点となる消費者については、第一次的には簡易ガス事業者がガスの供給義務者となる(法三七条の六第一項)ことをあげる。
簡易ガス事業者が、その供給地点についてガスの供給義務を負っていることは明らかであるが、簡易ガス事業者からガスの供給を受けている消費者であっても一般ガス事業者の供給区域内の消費者である以上、一般ガス事業者もまたこれに対してガスの供給義務を負担しているのであって、このような消費者がその意思に基づいて簡易ガス事業者からのガス供給を受けるのを止め、一般ガス事業者に対してガスの供給を申し込み、その供給を受けることは自由であるし、また、一般ガス事業者の供給区域内の消費者が一般ガス事業者からガスの供給を受けずに、簡易ガス事業者からガスの供給を受け、あるいは、簡易ガス事業者でない小規模導管供給事業者から液化石油ガスの供給を受けることも自由である。そうすると、現在原告らから液化石油ガスの供給を受けている消費者は、本件各申請が許可され、原告らが簡易ガス事業者として供給地点に対する供給義務を負うに至ると否とにかかわりなく、引き続いて原告らからガスの供給を受けるか、京葉瓦斯からガスの供給を受けることにするかを自由に選択しうるのである。そして、そのいずれを選択するかにつき、原告らが簡易ガス事業者になってその供給地点に対して供給義務を負うことになったという事実が生じても、その事実の影響は、ほとんどないか、あるいは、心理的なものなどを考慮しても極くわずかであるというべきであって、右事実に他の事情が加わればともかく、右事実だけでは直ちに有意の変化が生ずるものとは考え難い。したがって、簡易ガス事業者の供給地点に対するガス供給義務の存在だけを理由に、本件各申請が許可されなかった場合には対象地区内のすべての消費者が供給対象となるとし、許可された場合には簡易ガス事業の供給地点となるすべての消費者を除いた残余の消費者のみを供給対象とし、これに基づき工事負担金の額を計算することには、合理的な根拠があるとすることはできない。
ウ また、被告は、本件各申請が許可された場合に簡易ガス事業の供給地点を除いて工事負担金を計算する根拠として、一旦簡易ガス事業者からガスが供給されるようになった消費者については、使用するガス器具等の関係から一般ガス事業者の消費者への転換の蓋然性が極めて低くなることをあげる。
確かに、<証拠>によれば、原告らの供給している液化石油ガスと京葉瓦斯が供給しているガスとは、その熱量等が異なるため、消費者が一方のガスの供給を受けて使用するガス器具等は、他方のガスの供給を受ける場合にはそのまま使用することはできないことが認められる。
しかしながら、<証拠>によれば、原告らは、本件供給地点のうち、それぞれ六九地点には小規模導管により、その余の供給地点についてはガスボンベにより既に液化石油ガスを供給していることが認められるから、本件供給地点の消費者は、すべて原告らの供給する液化石油ガスの熱量等に適合したガス器具等を使用しており、本件各申請が許可された場合にも許可前に使用していたガス器具等をそのまま使用することとなるものと考えられる。そうすると、一旦簡易ガス事業者からガスが供給されるようになった消費者について、使用するガス器具等の関係から一般ガス事業者の消費者への転換の蓋然性が極めて低くなるというのであれば、現在原告らが液化石油ガスを供給している消費者についても、使用するガス器具等の関係から一般ガス事業者の消費者への転換の蓋然性はやはり極めて低いことになり、その転換の蓋然性の低さは、原告らが簡易ガス事業の許可を受けるか否かにより、全く違いがないとは断定し得ないにしても、有意の差異があるとは考え難い。したがって、本件各申請が不許可となった場合には対象地区内のすべての消費者が供給対象となるとしながら、本件各申請が許可された場合には使用するガス器具等の関係から簡易ガス事業者の消費者が一般ガス事業者の消費者へ転換する蓋然性が極めて低くなることを理由に簡易ガス事業の供給地点となるすべての消費者を除いた残余の消費者を供給対象とし、これに基づいて工事負担金の額を計算することに合理的な根拠があるとすることはできない。
エ 結局、被告の主張する工事負担金の試算方法は、合理的な根拠に基づくものとはいい難く、失当であるといわざるをえない。
(5) そうすると、市川市稲荷木二丁目二一番地内及び同稲荷木二丁目一四番地内に所在する本件供給地点の周辺地域が、本件各申請に係る簡易ガス事業の開始によって、京葉瓦斯の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域に当たるとの被告の主張は採用することができない。
(三)(1) 被告は、本件各申請について、さらに、右(一)のb(被告の主張1の(二)の(2)の②のイのb)に当たる地域、すなわち、本件供給地点を除く残存の需要のみでは、京葉瓦斯の導管の敷設等に係る投資の効率を著しく阻害することとなることが予想される場合におけるその残存の需要の存する地域が存在すると主張するので、この点について検討する。
(2) 京葉瓦斯の本件地区における主要な導管の敷設状況は、右1の(二)で認定したとおりであって、この認定事実によれば、京葉瓦斯は、昭和四三年から本件各申請の時点までの間、本件地区に導管の敷設等の投資を続けてきたということができる。
被告は、京葉瓦斯は昭和四三年度の供給計画において、本件地区が昭和六五年ころには当時の市川市の人口集中地区並みに発展し、五九九戸の消費者を擁するに至ると想定して導管を敷設してきたから、本件各申請に係る簡易ガス事業を許可すれば、残余の消費者戸数は、この想定消費者数の約七割に減少し、導管等の投資効率を著しく阻害すると主張する。
この点について、証人守屋智夫は、京葉瓦斯は昭和四三年に低圧導管を敷設する際に、本件地区において将来の約六〇〇戸に対してガスを供給することを想定していた旨証言する。
しかしながら、京葉瓦斯の昭和四三年度の供給計画自体を明らかにする証拠は提出されていないのみならず、昭和四三年当時の市川市の人口集中地区の位置、面積、世帯数、本件地区の面積等といった被告主張の五九九戸の算定の基礎となる数値を認めるに足りる証拠も提出されていないのであって、右守屋証言のみをもって京葉瓦斯が昭和四三年度の供給計画において本件地区の昭和六五年ころの消費者戸数を合理的な根拠をもって五九九戸と想定したとの事実を認めるに足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
また、翻って考えるに、残余の消費者戸数が想定消費者戸数の七割に減じたからといって、そのことだけでは、導管等の投資効率をある程度阻害するとはいえても、当然には、著しく阻害するとまではいえないと解されるが、本件では、著しく阻害すると断定するに足りるだけの事情につき主張も立証もない。
さらに、そもそも本件各申請に係る簡易ガス事業が許可された場合に、京葉瓦斯の導管等の投資効率が阻害されるか否か、また、阻害されるとすればどの程度阻害されるかについて判断するためには、京葉瓦斯の昭和四三年度における想定といったものが判明しただけでは不十分であって、むしろ、本件各申請時点において、京葉瓦斯が本件地区にガスを供給するため敷設し、又は敷設を予定している導管が何戸の消費者にガスを供給する能力を有しているのか、その導管の敷設に係る投資を回収するために、以後どの程度の期間にどのように京葉瓦斯の消費者戸数が増加することを要するのか、そしてそれに関連して、本件地区の以後の開発及び発展状況はどのようなものと想定できるのかなどといった点が必要となると考えられるところ、これらの点について主張もなければ立証もない。
したがって、本件各申請を許可すると、京葉瓦斯の導管等に係る投資の投資効率を著しく阻害することとなるとの被告の主張は採用し難いというほかはない。
(3) なお、被告は、一旦簡易ガス事業が許可されれば、供給地点数に制限がないのであるから、次々と供給地点を増加させ、その結果、ますます一般ガス事業者の投資効率を低下させる可能性が大きいとも主張する。
しかし、そもそも京葉瓦斯の投資効率の阻害の有無、程度を明らかにする主張も立証もないことは右のとおりであり、また、仮にこの点をひとまず措くとしても、原告らが本件各申請に係る簡易ガス事業の許可を受けた後にその供給地点を増加するためには、被告より供給地点の変更許可を受けなければならない(法三七条の七第一項、八条一項)のであるから、簡易ガス事業許可の時点では京葉瓦斯の投資効率の著しい阻害はないが、その後の供給地点の増加により京葉瓦斯の投資効率の著しい阻害が生ずることとなるというのであれば、その増加に係る供給地点の変更許可申請があった時に、被告においてそれに対して不許可処分をし、右の投資効率の著しい阻害という事態の発生を避けることとすれば足りるのであって、右主張はこれを直ちに採用することはできない。
(四) よって、被告の主張する「事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」については、いずれもその存在を認めることができず、他にこのような地域の存在をうかがわせる主張も立証もないから、本件各申請に係る簡易ガス事業が開始しても、一般ガス事業の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域が存在すると認めることはできない。
3 したがって、法三七条の四第一項三号のその余の要件の存否について判断を加えるまでもなく、本件各申請が同号に適合しないとの被告の主張は失当である。
三本件各申請の法三七条の四第一項四号への適合性について
1 ガス事業は使用者に導管によりガスを供給する事業であり、ガス発生設備、導管等を有する装置産業として固定資産の総資産に占める比率の大きい事業であることは公知の事実であるから、同一地域において複数のガス事業者が併存することは、一般的には、重複、過剰投資の弊害を発生させることとなり、国民経済的にみて多大な損失となって、ガス事業の効率的、健全な発展を図るという法の目的が達成できないこととなる。このことは、一般ガス事業者の供給区域内で簡易ガス事業が営まれる場合も基本的には同様であるが、法は、右供給区域内であっても、一般ガス事業者の導管が普及していない地域が存在し、そのような地域においては、簡易ガス事業を許可することによりガス供給の需要に即応することが消費者の利益に資することから、右供給区域内において簡易ガス事業が許可される場合のあることを認めた上で、法三七条の四第一項四号において簡易ガス事業の開始によりその供給地点についてガス工作物が著しく過剰とならないことを許可の要件として一般ガス事業と簡易ガス事業の調整を図っているのである。
このような法の趣旨に照らせば、同号によりガス工作物が著しく過剰と判断されるのは、申請に係る簡易ガス事業の供給地点の相当部分についてガス工作物が重複投資となる場合、すなわち、簡易ガス事業の許可申請の時点において、一般ガス事業者が申請に係る供給地点の相当部分について、既にガスを供給し、若しくは需要に即応できる導管を既に敷設している場合であるか、又はそのような導管を敷設していると同視し得る場合であるかであると解される。そして、これを若干具体的に掲げるとすれば、概ね被告の主張1の(二)の(3)の①のアないしウのようなものであると考えることができる。
2 そこで、このような観点から、本件各申請について法三七条の四第一項四号の適合性について検討するに、京葉瓦斯の導管の敷設状況は、前記二の1の(二)で認定したとおりであり、右認定事実と<証拠>を総合すると、京葉瓦斯は、昭和四三年以来本件地区において逐次導管を敷設してきた結果、少なくとも、本件各申請の時点においては、本件各申請に係るすべての供給地点についてガス供給の申込みがあれば、これに即応してガスを供給することが可能な導管網を敷設していたことが認められる。
したがって、本件各申請に係る簡易ガス事業が開始されれば、これによりその供給地点についてガス工作物が著しく過剰となるというべきである。
3(一) これに対し、原告は、京葉瓦斯は供給区域内に存在する本件地区について、長期間にわたってガス供給の即応態勢をとらず、原告らが導管網を敷設した後に重複的に導管を敷設したのであるから、被告が二重投資を問題にするのであれば、本件地区を供給区域から削除して京葉瓦斯の時機に遅れた導管敷設を許すべきでなかったと主張するので、以下この主張について検討する。
(二) 法一五条二項によれば、通商産業大臣(ただし、供給区域が一の通商産業局の管轄区域内のみにあり、かつ、供給区域内におけるガスメーターの取付数が六〇万個以下の一般ガス事業者に関するものについては当該供給区域を管轄する通商産業局長。法五二条、法施行令七条)は、一般ガス事業者が、その供給区域の一部において一般ガス事業を行っていない場合において、公共の利益を阻害すると認めるときは、その一部について供給区域を減少することができるとされているが、右規定は、一般ガス事業者がその供給区域の一部においてガスの供給態勢をとっていなかった場合に、通商産業大臣又は通商産業局長に対して当該一部の供給区域の減少を義務付けたものではなく、供給区域の減少を行うか否かをその裁量に委ねたものであることは明らかである。そして、仮に、原告主張のとおり、一般ガス事業者である京葉瓦斯がガス供給の即応態勢をとっていなかった時点に本件地区において、原告らが小規模導管事業を開始したものであったとしても、その一事のみをもって通商産業大臣あるいは被告において本件地区を京葉瓦斯の供給区域から削減しなかったことが直ちに右裁量の範囲を逸脱し、あるいは右裁量を濫用したものとはいえないことは明らかであるから、原告の右主張は、この点において既に失当である。
(三) のみならず、原告らの右主張は、原告らが導管網を敷設した後に、京葉瓦斯が重複的に導管を敷設したという事実を前提とするものであるが、以下のとおり、その前提事実もこれを認めるに足りない。
すなわち、本件地区における京葉瓦斯と原告らとの導管敷設状況をみるに、京葉瓦斯の導管敷設状況は、前記二の1の(二)で認定したとおりであり、また、京葉瓦斯が、本件各申請の時点においては、本件各申請に係るすべての供給地点についてガス供給の申込みがあれば、これに即応してガスを供給することが可能な導管網を敷設していたことは、右2で認定したとおりである。
これに対して、<証拠>によれば、本件地区における原告らの導管の敷設状況等について、次の事実が認められる。
(1) 本件各申請のうち原告市川瓦斯の申請に係る供給地点に関しては、原告市川瓦斯は、昭和五三年三月に内径八〇ミリメートルの導管を敷設したのを最初として、昭和五五年八月、昭和五八年七月、昭和五九年一〇月、昭和六〇年二月と順次導管を延長し、本件各申請時点においては、内径八〇ミリメートルの導管延長四〇二メートル、内径五〇ミリメートルの導管延長七六メートル、総延長四七八メートルの導管網を敷設していた。
(2) 本件各申請のうち原告末吉の申請に係る供給地点に関しては、原告末吉は、原告市川瓦斯が昭和五〇年七月に内径八〇ミリメートルの導管二八〇メートルを敷設したのを最初として、昭和五一年一〇月、昭和五二年一月、同年二月、同年三月、昭和五八年九月と順次延長してきた導管網を昭和五八年一〇月に原告市川瓦斯から譲り受け、本件各申請時点においては、内径一〇〇ミリメートルの導管延長三一六メートル、内径八〇ミリメートルの導管延長七四〇メートル、内径五〇ミリメートルの導管延長142.5メートル、総延長1198.5メートルの導管網を有していた。
(3) 原告らは、右(1)、(2)の導管網により、本件供給地点のうち、それぞれ六九地点に液化石油ガスを供給しており、その余の地点についてはガスボンベにより液化石油ガスを供給しているが、本件各申請が許可された場合にも既存の導管と現在ガスボンベにより供給している地点とを供給管で連結すれば足り、それ以外に新たな導管を敷設する必要はない。
(4) 原告市川瓦斯の敷設した導管四七八メートルのうち少なくとも約六割、また、原告末吉の敷設した導管1198.5メートルのうち少なくとも約八割は京葉瓦斯の導管と同じ道路の下に並行して敷設されている。このような二重配管のうち大部分は、京葉瓦斯が、原告らの導管が既に敷設してあるところに並行して導管を敷設したために生じたものであるが、一部は、原告らが、京葉瓦斯の導管が既に敷設されているところに並行して導管を敷設したために生じたものである。
以上の事実を総合すると、本件供給地点ないしその近傍にガスの供給を可能とする導管を先に敷設したのは概ね原告市川瓦斯であるが、一部は先に京葉瓦斯が敷設したところもあり、さらに、本件地区全体でみると、最初に消費者にガスの供給を可能とする導管を敷設したのは京葉瓦斯であり、昭和五〇年七月に原告市川瓦斯が導管の敷設を開始し、その後、原告らと京葉瓦斯とが競合しつつ導管を延長してきた結果、本件各申請当時には、原告らと京葉瓦斯のいずれも、本件供給地点のすべてについてガスを供給することが可能な導管網を有するに至ったものということができる。そうすると、原告らが導管網を敷設した後になって、京葉瓦斯が重複的に導管の敷設をしたという原告ら主張の事実は、これを全面的には肯認することができない。
そうすると、右の事実を前提として、被告が本件地区を京葉瓦斯の供給区域から削除すべきであったとする原告らの主張は、その前提を欠くものである。
(四) したがって、原告の右主張はいずれにしても失当といわざるをえない。
4 さらに、原告らは、本件各申請は「せり上り」による許可申請であるから、原則として簡易ガス事業の許可を与えるべきであり、また、本件各申請が許可されても、原告らは既存の導管等の設備をそのまま利用するにすぎず、ガス工作物の実体の総量はほとんど変らないから、被告が、本件各申請と全く新規に簡易ガス事業を営もうとする者の許可申請とを同一視してガス工作物の過剰性を判断するのは法の趣旨に合致しないと主張するので、以下この主張について検討する。
法は、小規模導管供給事業のうち一の団地内におけるガスの供給地点数が七〇以上のものを簡易ガス事業とし(法二〇条三項)、簡易ガス事業に対しては、事業の許可、供給規程の認可等の公益事業規制(三七条の二、三七条の七第一項、一七条一項)を加えているが、ガス工作物の過剰性もこの公益事業規制の一環である簡易ガス事業の許可の要件として問題となるのである。他方、供給地点数七〇未満の小規模導管供給事業に適用される液石法は、保安の確保及び取引の適正化という観点から規制を加えるにとどまり、ガス工作物の過剰性については何ら問題としていない。このような小規模導管供給事業に対する法と液石法との規制の仕方の相違及びガス事業の運営を調整することによって、ガス使用者の利益を保護し、ガス事業の健全な発達を図るという法の目的とに鑑みれば、法は、国民経済的にみて、設備の二重投資による無駄が無視できない供給地点数の最小限度を七〇とし、一団地内の供給地点数が七〇以上のものに対して公益事業規制を加えているのであり、供給地点数が七〇未満の液石法の適用を受ける小規模導管事業については、一般ガス事業のガス工作物との間に導管等の二重投資が生じてもそれを放任し、そこまでは規制を加えないとの立場に立っていると解される。
そうだとすれば、原告らのように、液石法の適用を受けて小規模導管供給事業を営み、既に導管等を敷設している者が「せり上り」により許可申請する場合と、新規の簡易ガス事業を営むため、全く導管等を敷設していない者が許可申請する場合とは、申請に至る経緯は異なるものの、一団地内の供給地点数が七〇以上となったときに初めてガス工作物の過剰性を問題とする法の立場からは、前者の場合を後者の場合と区別すべき根拠は見いだし難く、いずれの場合であっても全く同様に、簡易ガス事業の許可申請があった時点において初めて、導管等のガス工作物の過剰性について右1で示したとおりの基準で判断がされることになるのである。
したがって、本件各許可申請が「せり上り」によるものであることを理由としてこれを許可すべきであるとする原告らの主張は理由がないというべきである。
5 以上のとおり、本件各申請は、法三七条の四第一項四号に適合しないものといわざるをえない。
四本件各不許可処分の手続的適法性について
原告らは、本件各不許可処分のうち原告末吉に対するものは、被告が地方ガス事業調整協議会の意見をきくことを怠ってしたものであるから、手続上違法であると主張するが、<証拠>によれば、被告は、本件各申請について昭和六一年二月二四日付けで東京地方ガス事業調整協議会に諮問し、同年三月一三日付けで同協議会から、本件各申請は、いずれも法三七条の四第一項三号及び四号の基準に適合しないとの答申を受けたことが認められるから、原告らの右主張は理由がないことは明らかである。
五本件各不許可処分の合憲性について
原告らは、本件各不許可処分は合理的な理由がないのに一般ガス事業者の利益を偏重して原告らを経済的に不当に差別し、かつ、正当な理由もなく原告らが本件供給地点において簡易ガス事業を営む権利を侵すものであるから、憲法一四条一項及び同法二二条一項に違反すると主張する。
しかしながら、本件各申請が法三七条の四第一項四号に適合しないことは前記のとおりであって、本件各不許可処分は、法に根拠を有し、また、その法の適用に不合理な点はないということができる。したがって、本件各不許可処分が合理的な理由ないし正当な理由を有しないことを前提とする原告らの右違憲の主張は、前提を欠くものというべきである。
六結論
以上のとおり、本件各不許可処分は、実体的にも手続的にも違法な点は認められないから、原告らの請求は理由がない。
よって、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官石原直樹 裁判官深山卓也)